母は角田光代が好き
母は『八日目の蟬』をたいそう気に入ったらしく、ぼくにも勧めてきた。
どれほど気に入ったかというと、図書館で借りた『八日目の蟬』の栞紐が擦り切れて短くなっていたものだから、自分で紐を縫い足したほどである。
本人は「これからこの本を借りるひとも便利になるに違いない」と確信しての行動だったが、返却するときに図書館員の方に確認すると、「修繕は図書館で行っていますが、栞紐の付け替えはたぶんしない(できない)と思います。ですが付け足しはしないでください」という予想通りの返答だった。
仕方がないのでぼくはその場で付け足した栞紐を抜いた。
『八日目の蟬』の栞紐は本の高さよりも短く、栞紐の役割をなさないだろうが、多くの人がこの本を読んだという名誉の証に見えなくもない。
母にはぼくから修繕禁止を伝えたが、まるでいたずらがバレた子どものように明るく笑っていた。
その後も『私のなかの彼女』などを読んだ母である。もっと角田光代の本を図書館で借りようと思うのだが、フォントサイズの小さい本ばかりなので母が読みづらいだろうと想像すると躊躇してしまう。
ところで今日、目立つところに掛けているカレンダーを眺めていると、明日の日付に『1.20八日目のセミ』と母の字で書いてある。
近くに母がいなかったのであたりをつけて調べてみると、明日の13:20からテレビ東京で映画『八日目の蟬』が放映されるので、見逃さないようにメモしたらしかった。
母のそういうところ、可愛らしいなあと思っている。
映画も楽しんでほしいものだ。