母は西條奈加の『善人長屋』を読み終えると、森鴎外の『舞姫』が読みたいとリクエストしてきた。
以前も、泉鏡花の『高野聖』や志賀直哉の『城の崎にて』をリクエストされたのだが、図書館から借りられる本は、文庫本や全集が多くて母が読むには字が小さくて読みづらいのだ。しかも30〜40年前に出版された本が多く、現在の文庫本よりも字が小さい。
青空文庫を読みやすいフォントサイズにしてプリントアウトしようかと思ったが、短編といえど意外と枚数を必要とするのであきらめた。
さらに、森鴎外や泉鏡花は擬古文なので、現代文に訳した文章も掲載されていたほうが親切だろうな、などとぼくは考えた。
そこで図書館から借りたのは2冊。
そして『近代名作館3』(桑名 靖治∥編)。
『近代名作館3』は、近現代の短編が20篇収録されており、高校生向けなので舞姫の現代語訳も脇に載っている(ただし、現代語訳はおまけ程度に字が小さい)。
『二葉亭四迷、森鴎外の代表作を読み直す』は、舞姫の背景(当時の情勢や登場人物の心情など)を解説文と本文が交互に出てきて、教科書の実況中継のような感じ。
これで母の理解も進むであろう、と思っていると『読み直す』の解説が分かりやすくて気に入ったらしい。
母「『舞姫』って教科書に載ってたの?」
ぼく「そうだよ。高校で習ったよ」
母「私のときは無かったとおもう」
調べると『舞姫』は母が高校生のころの教科書に掲載されていたらしいので、おそらく母の記憶から忘れられただけだと思うが、まあそんなことはどうでもいい。
今の母は『近代名作館3』に収録されている他の短編を読んでいる最中だ。
そして、母が突然気づいたことがある。
母「俳優が小説を朗読したCDの新聞広告がときどき載っているけれど、長い小説の朗読なんか、集中して聞けないだろうし、小説の途中だけ抜粋してても意味分かんないだろうし、と思っていたけど、読んでる小説って全部短編なのね!?」
ぼく「そうだよ」
母「今日突然気づいた!」
どうです、ぼくの母は可愛らしいと思いませんか。