『「国境なき医師団」を見に行く』
国境なき医師団の活動内容を広く外部に知ってもらうため、著者が直接海外に足を運び、派遣地の問題とそこで活動する団員の横顔を記した内容。
僕は高校生の頃、いとうせいこうの小説が好きだった。
一番好きだった小説は『解体屋外伝』だったと思う。何しろ、文体がかっこよくてときめいた。
久しぶりに読んだいとうせいこうの著書『「国境なき医師団」を見に行く』は、小説ではないけれど、ほんの2、3ページ読んだだけであのときめきを思い出した。あの文体は健在だった。
見に行くというタイトルがつけられているけれど、団や現地の人に対して上から目線でもないし物見遊山気分で訪れているのでもない。
大きな災害や紛争があって、それが日本でもニュースになったとしてもその続報を伝えられることは滅多にない。いとうせいこうも、「ニュースのその後」をあまり知らぬまま実際に現地を訪れ、支援している人々の話を聞き、目を見開いていく。
「僕は世界のことも社会のことも知らなさすぎる」と打ちひしがれながら読んでいた。そんな無力感は、僕がいとうせいこうを読んでいた高校時代に引き戻す。僕と30年前といとうせいこうはがっちりつながっているようだ。
「国境なき医師団」の内部の人にもノンフィクション作家にもたぶん書けないであろう、小説家いとうせいこうならではのレポートなんだよなぁ。しびれる文章で綴られていて、それが逆に現実をフィクションぽく見せてしまっているような気はする。
だけど、苦しい状況に立たされている人々がいる状況も、目の前のその人々を支援するために汗をかく人がいることも現実なんだ。
そして、立場がいつ逆転するかもしれないことも。
国境なき医師団の寄付ページにリンクしておきますね。