『ヒルは木から落ちてこない。』
近年、住宅地に近い低山でヤマビルが大量に発生することが問題になっています。
登山客やハイキング客の皮膚に音もなく吸い付き、満腹になるまで吸血すると落ちていくんだけど、吸われた箇所からは大出血するというおまけ付き。
人間からは嫌われ、たびたび新聞記事になる話題です。
このヤマビルの研究者というのは存在しなかったようで、その生態を研究するために小中学生たちが夢中になって取り組んだ経過が綴られているのがこの本。
率直に言って、その道筋はスリリングでミステリー小説のようでもあり、とても面白かったです。
著者は「こどもヤマビル研究会」を設立した、元小学校の先生。文章は子どもたちのイキイキとした会話が中心になっているので、読みやすいし読者も研究会員になった気持ちになる。
研究は子どもたちの疑問を始点に、フィールドワークや実験によってヤマビルの生態を明らかにしていく。学校の授業とはまるで違うんですよね。ここがもうスゴいなあ、と理科が得意でなかった中年として思うんです。
大人は子どもたちの手伝い、サポーターっていう程度。
従来信じられていたヤマビルに関する生態『ヒルは木から落ちてくる』というのは間違いだと、登山のイベントで研究発表してもなかなか容易には信じられない年配者たち。
こういうのもグッとくる。
子どもたちは自分たちで実験を数々行い、確信があるからそんなに滅気てないのもよかった。
がんばれ、がんばれって読みながら応援していたよ。
まだまだ、ヤマビルの生態がすべて明らかになったというわけでもなく、研究会の活動は続く。
この本が、登山関係の出版社「山と渓谷社」から出版されたのも、彼らの研究が世に広まる一助となることは間違いない。