『あちらにいる鬼』
女性の心情描写が上手いなぁと唸りながら読みました。細やかなだけでなくて、文章でのごまかしもない。
例えば、人間関係について考えるとき、ぼくなんかは「もういいかぁ、面倒くさー」なんて、途中で考えるのをやめちゃうんだけど、この物語のみはると笙子はそんなことない。とことんまで考えている。愛した男とその隣りにいる別の女性について、を。
白木という男に妻子があることを知りながら、あっという間に男女の仲になった長内みはると、白木の妻の笙子がにそれぞれの視点で語っていく。
またこの白木という男が、自信家で臆病で、母性本能くすぐるタイプなんだよなぁ。絶えず隣に女がいる。旅行先でも女をつくる。つくるというより、女性がいなくては生きられない男なのだ。しょーもないクズだなぁと思うんだけど、みはるも笙子も白木を愛している。その心情が詳細だから、いつしか白木をぼくも好きになってしまう。
石の上に腰掛けようとしたみはるのために、白木がさっとハンカチを敷いたシーンなんて、「こんなことされたらたまらないよなぁ」とキュンとしてしまう。
ぼくは以前、著者の井上荒野の別の本を読もうとしたところ、文章がなんだかゴキゴキと回りくどく感じたので数ページで断念したのだけれど、この小説は一人称で進んでいくせいか読みやすかった。